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【ガジェ獣】ロボット掃除機の興亡史:iRobot破産申請から見る業界の大転換と、中国メーカーが切り拓く次世代への道

2025年12月14日、家庭用ロボット掃除機の代名詞として35年間君臨してきたiRobotが連邦破産法第11条の適用を申請し、中国のPicea Roboticsに買収されることが発表されました。「ルンバ」というブランドは世界中で知られ、日本では市場シェア65%、米国でも42%を誇る絶対的な存在でしたが、わずか10年という短い期間で中国企業の猛追により王座から転落することとなりました。

本記事では、ロボット掃除機という製品カテゴリがどのように誕生し、どう進化してきたのか。そして、なぜiRobotは凋落し、中国メーカーが市場を席巻するに至ったのか。その歴史を振り返りながら、現在の市場を牽引するメーカーたちの戦略と、未来への展望を詳しく見ていきます。

本記事は星影(@unsoluble_sugar)さんが主催するガジェ獣 Advent Calendar 2025の2日目の記事です。12月15日はねじまきさんの任天堂の目覚まし時計「アラーモ」がおすすめ。でした。明日は引き続き私あーるが担当します。

1. ロボット掃除機の黎明期:iRobotの栄光

ロボット掃除機の歴史は、1990年にMITの人工知能研究所で出会った3人の研究者から始まります。ロドニー・ブルックス、コリン・アングル、ヘレン・グライナーの3人は、1990年にiRobotを創業。当初は軍事用ロボットや教育用ロボットの開発を手がけていましたが、2002年に発売した初代「ルンバ」が大ヒットし、家庭用ロボット掃除機という全く新しい市場を切り拓きました。

初代ルンバの登場は衝撃的でした。それまで「掃除」は人間の手で行う家事労働そのものでしたが、ルンバはボタン一つでそれを自動化する可能性を示したのです。円盤状の本体がランダムに部屋を動き回り、壁や家具にぶつかると方向を変えて掃除を続ける。その姿は、まさに「未来の家電」そのものでした。

iRobotが長年にわたり市場を支配できた理由は、いくつかあります。まず、先行者としてのブランド認知度の圧倒的な高さ。「ロボット掃除機=ルンバ」という等式が世界中で成立していました。また、同社はカメラベースの視覚SLAM(vSLAM)技術に注力し、部屋の地図を作成して効率的に掃除するナビゲーション技術を磨き上げてきました。

さらに、膨大な特許ポートフォリオを構築し、競合他社の参入を法的にも防いでいました。2020年代初頭までは、高価格帯のプレミアム市場を完全に掌握していたのです。しかし、この栄光の時代は長くは続きませんでした。東の国から、強力なライバルたちが現れたのです。

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2. 技術革新の10年:「自動化」から「完全放置」への進化

ロボット掃除機の進化を語る上で欠かせないのが、過去10年間の目覚ましい技術革新です。中国メーカーが市場に参入し、熾烈な競争を繰り広げる中で、製品は「単なる自動掃除機」から「完全自立型清掃インフラ」へと飛躍的に進化しました。

黎明期(2014-2018年):「安かろう悪かろう」からの脱却

ILIFE V5

2010年代半ばまで、ルンバ以外の選択肢は限られており、市場には品質の低い製品が多く流通していました。この時期の主流はランダム走行(バウンド方式)で、壁や家具にぶつかることで方向を変える単純な動作が特徴でした。

しかし、2018年頃から状況が変化し始めます。ジャイロセンサーが中低価格帯のモデルにも導入され、「弓形走行」と呼ばれるより規則正しい掃除パターンが可能となったのです。これにより掃除効率は向上しましたが、部屋の地図を描く「マッピング」機能は依然として高級機種の特権でした。

当時の定番機種であったILIFE V7s Plusなどは、シンプルなリモコン操作、ダブルブラシによる確実な掃除性能、そして何よりその安さと薄さが一人暮らし層に支持されていました。スマートフォンアプリとの連携はまだ珍しく、製品の基本的な信頼性とコストパフォーマンスが最大の購買要因だったのです。

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2018年:
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革新期(2019-2020年):LDSレーザーによる「地図」の民主化

2016年にはXiaomiのロボット掃除機が登場

2019年以降、市場に「Xiaomiショック」とも呼べる大きな変化が訪れました。それまで10万円クラスの高級機に搭載されていたLDS(Laser Distance Sensor)レーザーマッピング技術が、数万円台の普及価格帯にまで一気に降りてきたのです。

この技術革新は革命的でした。ロボットが自ら部屋の間取りを正確に把握し、スマートフォンのアプリ上に可視化する。ユーザーはアプリ上で特定の部屋だけを掃除するエリア指定や、立ち入らせたくない場所の設定(バーチャルウォール)を簡単に行えるようになり、ロボット掃除機の「賢さ」と「使いやすさ」が格段に向上しました。

Kyvol Cybovac E31

同時期には、「吸う」と「拭く」を同時に行う水拭き同時実行(2-in-1)スタイルも主流化し始めました。Kyvol Cybovac E31のような新興メーカーの製品は、ジャイロセンサーとマッピングを組み合わせた高コスパモデルとして評価され、高額なルンバに依存しなくても十分な清掃能力が得られることを市場に証明したのです。

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飛躍期(2021-2022年):全自動化の幕開けと「ゴミ捨て不要」の衝撃

ゴミの全自動収集機能を備えたECOVACS DEEBOT N8+

2021年から2022年にかけて、ロボット掃除機の「自動化」は本体の動作を超え、メンテナンス領域へと拡張されました。その中心となったのが自動ゴミ収集ステーションです。掃除が終了すると、ロボットがドックに戻り、ステーションが轟音とともに本体のダストボックス内のゴミを大きなパックに吸い上げる。この機能は、ユーザーが毎回ゴミを捨てる手間から解放する革命的進化でした。

ECOVACS DEEBOT N8+などのレビューでは、この利便性がゴミ捨ての労力を極限まで削減できるレベルに。使い捨てモップとの組み合わせによりメンテナンスフリーへの扉が開かれた時代が始まった時期でした。

さらに、Neakasa N3のような機種は「3万円台でLidarマッピング+ゴミ収集」というかつてない価格破壊を起こし、全自動機能の大衆化を決定づけました。

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成熟期(2023-2024年):「モップ洗浄」の自動化で完全メンテナンスフリーへ

Yadea Fairy 10

自動ゴミ収集により「吸う」作業の完全自動化が達成された後、残された最大の課題は「水拭き」後の汚れたモップをユーザーが洗うことでした。2023年以降、この最後の矛盾を解消する全自動クリーニングステーションがハイエンドモデルのスタンダードとなりました。

このステーションは、ロボットが戻るたびにモップを自動で洗浄・脱水し、熱風で乾燥させます。給水タンクと汚水タンクを備え、ユーザーは数日おきにタンクの水を交換するだけで済むようになりました。Yadea Fairy 10などのレビューでは、「加圧回転モップ」と「モップ自動洗浄」により床のベタつき汚れまで落とせる性能と、汚水タンクを持っていく手間以外、ほぼ何もしなくて良くなった解放感を記載していました。

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最前線(2025年):AI技術の搭載と、「変形」するロボットと究極の放置主義

Xiaomi ロボット掃除機 5 Pro

2025年頃にはAIもロボット掃除機に搭載する時代に。大規模言語モデルLLMの技術の発展の恩恵はロボット掃除機にもやってきて、ロボット掃除機にもカメラを搭載。これまでのLiDARセンサーによる障害物検知に加えて高画質なカメラを用いて写っているものがなにかまで分析をする時代になりました。Xiaomi ロボット掃除機 5 Proでも、この映像をネットワーク経由で参照できるようになるなど、一段上の性能を実現しました。

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そして、2025年の最新技術が示すのは、従来の枠組みを超えた、SFのような進化です。その技術トレンドの中心は「可変機構」と「洗浄技術の極限化」にあります。Dreame Aqua10 Ultra Roller(レビュー)のような最上位機種は、壁際や家具の脚元までモップアームを伸ばして掃除する「MopExtend/SideReach」機能を実装。これにより、従来の円形本体では不可能だった隅々の清掃が可能となっています。また、70℃近い温水や電解水によるモップ洗浄で油汚れを分解する機能、さらには段差を乗り越えるためのシャシー昇降機構までが登場しています。

Dreameの「30,000Pa」という驚異的な吸引力とリアルタイムのモップ浄水洗浄は、「床に寝転がれるレベル」の清潔さをもたらすレベルに。Xiaomi ロボット掃除機 5 Proに至っては、ブラシに絡んだ髪の毛を自動でカットする機能まで搭載し、あらゆる手間を排除しようとする開発競争の過熱ぶりを印象付けてくれました。

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3. 市場の大転換:中国メーカーの台頭とiRobotの凋落

技術の急速な進化と並行して、市場のプレイヤーも激しい再編を経験しました。iRobotの凋落は象徴的であり、その背景には中国企業の猛追がありました。

IDCの調査によれば、2025年上半期の世界家庭用清掃ロボット市場の上位4社を中国勢が独占し、iRobotは5位に後退しています。具体的には、Roborock (15.2%)Ecovacs (13.7%)Dreame (10.2%)Xiaomi (7.4%) がトップ4を占めました。2025年前三半期のデータでは、出荷量トップ5を完全に中国ブランドが独占するに至っています。これにより、市場構造は「ルンバか否か」から「中国メーカー三国志」へと完全に塗り替えられたのです。

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iRobotはなぜ凋落したのか

近年の製品は中国メーカーにくらべて革新性が低下していたiRobot

かつて絶対的な王者であったiRobotが、なぜこれほどまでに急速に地位を失ったのでしょうか。その理由も今回調査してみました。

1. 技術革新への対応遅れ

iRobotは長年、カメラベースのvSLAM技術に注力してきました。しかし、中国メーカーが採用したLDSレーザー技術の方が、暗い場所でも正確にマッピングでき、プライバシーへの懸念も少ないという利点がありました。iRobotがこの技術トレンドへの転換に遅れたことは、致命的でした。

また、自動ゴミ収集ステーションやモップ自動洗浄といった革新的機能も、中国メーカーが先行して市場に投入し、iRobotは後追いとなりました。

2. 価格競争力の喪失

中国メーカーは、効率的なサプライチェーンと大量生産により、驚異的な価格競争力を実現しました。LDSレーザー搭載モデルが3万円台で購入できる時代に、iRobotの主力製品は依然として10万円前後という価格設定でした。この価格差は、多くの消費者にとって無視できないものとなりました。

3. 経営判断の失敗

2022年、AmazonがiRobotを17億ドルで買収する計画が発表されましたが、規制当局の反対により2024年に白紙撤回されました。この買収計画の頓挫は、iRobotの経営基盤を大きく揺るがしました。Amazonという強力なバックボーンを失い、単独での生き残りを余儀なくされたのです。

4. サプライチェーンのリスク

iRobotは製造をベトナムに移転していましたが、2025年、ベトナムからの輸入品に対して米国が46%という高率の関税を課したことで、約2,300万ドルものコスト増に直面しました。この予期せぬコスト増は、すでに苦しい財務状況にさらなる打撃を与えました。

5. 巨額の負債

最終的に、iRobotは主要な製造委託先であったPicea Roboticsに対する製造費約1億6,150万ドルの支払いを滞らせていました。この巨額の負債が、Piceaによる買収という結末へと繋がったのです。

Picea Roboticsとは何者か

iRobotを買収したPicea Robotics(中国名:深圳市杉川机器人有限公司)は、一般消費者からはほとんど知られていない「陰の巨人」です。同社は世界有数のロボット掃除機のODM(Original Design Manufacturer)企業であり、製品の設計・開発から製造までを一貫して請け負う高い技術力を有しています。深センに本拠を置き、中国とベトナムに研究開発および製造拠点を構え、従業員数は世界中で7,000人以上、これまでに2,000万台以上のロボット掃除機を製造・販売してきました。

驚くべきことに、Piceaの顧客リストには、XiaomiやSharkなど、iRobotの直接的な競合他社のロゴが並んでいます。また、市場ではDysonが2025年に発売した最新ロボット掃除機「Dyson Spot & Scrub Ai」の製造もPiceaが担っているという噂があります。

つまり、市場で激しく競い合うこれらのブランドの製品が、実は同じ「製造基盤」と「基礎技術」を共有している可能性があるのです。Piceaは、それ自体では一般消費者からはほとんど知られていない存在でありながら、世界のロボット掃除機市場の製品供給と技術トレンドに絶大な影響力を持っているのです。

さらに注目すべきは、Piceaが完全子会社としてPicea Motion(深圳市杉川機器人有限公司)を持ち、精密ハーモニックドライブ減速機(産業用ロボットアームなどの精密な動きを実現する核心部品)を自社開発・製造していることです。この垂直統合体制により、Piceaグループはロボット掃除機の設計から、その精密な動作を司る心臓部の製造までを内製化し、高い競争力を獲得しています。

3i S10 Ultra

また、Piceaは自社ブランド「3i」も展開しており、その主力モデル「3i S10 Ultra」は、ユニークな水循環システムや緑色の照明で汚れを検知する「スマート汚れスキャン技術」など、他社が追随する現在の市場トレンドを先取りする性能を有しています。

4. 現在の市場を牽引する主要プレイヤー

中国メーカーが世界市場を席巻する中、トップグループの3社は、それぞれ明確に異なる戦略的ポジショニングで市場をリードしています。

Roborock(ロボロック / 石頭科技):「信頼の王者」

Roborockは2014年7月、昌敬(チャン・ジン)によって北京で設立。創業直後の同年9月にXiaomiの投資を受け、そのエコシステムチェーンに参入したことが、生き残りと初期成長の決め手となりました。2016年に初代ロボット掃除機を発売後、XiaomiのOEM供給から自立し、独自ブランド「Roborock」として世界市場、特に日本を含む先進国市場へ積極的に進出しました。この「Xiaomi依存からの脱却」と「グローバルブランド化」という2つの果断な決断が、同社を2025年前三半期に世界出荷量378.8万台、シェア21.7%のトップに押し上げました。

Roborockの最大の強みは、ハードウェアの抜群の耐久性と、絶対に迷子にならない高精度なマッピングアルゴリズムにあります。世界中で累計2,000万台以上を販売する実績は、製品の信頼性の証左です。「高機能でありながら壊れにくい」という評価を確立し、それが世界シェア首位へと導きました。

製品開発においても、日本の狭い住宅事情に対応する超薄型モデルを投入するなど、市場ごとの細かいニーズに対応する柔軟さも示しています。米国、ドイツ、韓国など多くの国で出荷量首位を維持するなど、グローバル展開の深化が成功しています。

洗濯機を作り出すRoborock

しかし、Roborockも課題を抱えています。2025年第1四半期は売上高が前年同期比86%増であるのに対し、純利益は33%減という「増収減益」に陥っています。背景には、半導体などの原材料費高騰、熾烈な機能競争に伴う研究開発費の増大、そして価格下落による収益圧迫という三重苦があります。

また、主力事業に依存するリスクを分散するため、洗濯機や洗濯乾燥機、さらには自動車(極石汽車)への進出を試みていますが、いずれも苦戦を強いられています。自動車事業は販売が伸び悩み、洗濯機事業では2025年に大規模なリストラを実施しました。

Dreame(ドリーミー / 追覓科技):「スペックの怪物」

Dreameは2017年に清華大学発のスタートアップとして創業しました。従業員の7割がエンジニアという技術集団で、2024年には20万回転の高速デジタルモーターの開発に世界で初めて成功し、ダイソンをも凌駕する技術力を示しました。このモーター技術を核に、30,000Paという驚異的な吸引力や高度なAI障害物回避機能を武器に、「スペックの怪物」として市場での認知を急速に高めています。

Dreameの戦略は「他社を圧倒する先端技術の搭載」に尽きます。可変アーム、段差乗り越え、温水洗浄など、他社がためらうような機能をいち早く「全部乗せ」し、技術的リーダーシップを誇示します。2025年のレビューで主役を張るDreameは、その結果、欧州市場では2025年4-6月期にシェア25.5%で首位に立つなど、急成長を遂げています。2025年前三半期の世界出荷量は193.9万台、シェア10.2%で第3位につけています。

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Dreameは2025年、ロボット掃除機メーカーとしては前例のない領域に相次いで参入しました。まず、エアコンや冷蔵庫などの大型家電市場に進出。そして、最大の衝撃として、超高級EV(電気自動車)市場への参入を発表しました。

自動車事業会社「星空計画」を資本金10億元(約200億円)で設立し、2027年の製品公開を目指しています。ブガッティ・ヴェイロンをベンチマークにするという野心的なプロジェクトで、ロボット掃除機で培ったモーター技術やAI技術の転用が期待されています。

Ecovacs(エコバックス / 科沃斯):「全自動化の先駆者」

Ecovacsの前身である泰怡凱電器(蘇州)有限公司は1998年に設立され、OEM製造から出発した業界の「老師傅」(古参の職人)です。2009年に独自ブランド「科沃ス」を立ち上げ、「地宝」シリーズを発売しました。2013年には中国企業として初めてLDS(レーザー測距)ナビゲーションを搭載した「地宝9」シリーズを投入し、業界を「衝突式」から「計画式」清掃の時代へと導いた先駆者となりました。

2025年前三半期、世界出荷量245.3万台(シェア14.1%)で第2位であり、中国国内市場では出荷量トップを維持しています。市場における最大の功績は、全自動ステーションの早期普及と市場への定着にあります。

自動ゴミ収集やモップ洗浄ステーションをいち早く商品化し、ユーザーに「全自動」の概念を植え付けた先駆者です。ラインナップが豊富でハイエンドからエントリーモデルまで幅広く展開し、家電量販店での販売網構築にも成功しています。

Ecovacsは高級スマートホームクリーニングブランド「添可(Tineco)」を独立させ、ロボット掃除機に加えて洗浄機市場でも成功を収めています。これにより、クリーニング家電全般における存在感を高めており、現在最も成功している多角化事例となっています。

その他の注目プレイヤー

Xiaomi(シャオミ / 小米):エコシステムの巨人

Xiaomiはハードウェアメーカーというより、IoTエコシステムの構築者として市場に影響を与えています。自社ブランドのロボット掃除機は「高コスパ」路線を堅持し、全ての製品が「米家(Mi Home)アプリ」と「小愛同學」音声アシスタントに対応することで、スマートホーム環境とのシームレスな統合を実現しています。

直接の市場シェアではトップグループにやや及ばないものの、そのエコシステムを通じて、Roborockをはじめとする多くの関連メーカーを間接的に支援・育成してきた歴史を持ちます。市場全体の「コモディティ化」と「価格低下」を促進する重要なプレイヤーであり続けています。

Narwal(ナーワル / 雲鯨):新星の台頭

2016年設立のNarwalは、2025年上半期に初めて世界シェアトップ5(8.5%)入りを果たし、iRobotをランキング外に追いやった新星です。普及率の低い新興市場をターゲットに差別化を図る戦略が功を奏しました。自動モップ洗浄機能など特定の機能で差別化を図り、海外市場を中心に急成長を遂げています。

Anker / Eufy(安克創新):「ブランド信頼」を基盤に市場を拡張する総合スマートホーム企業

Anker Innovationsは、モバイルバッテリー分野での世界的なブランド力を土台に、スマートホームブランド「Eufy」を中核に据え、ロボット掃除機市場へと進出した異色のプレイヤー。創業者の元Googleエンジニアという技術的バックグラウンドが反映し、「品質・信頼性・確実な動作」 を最優先する製品哲学が特徴。初期の主力モデルは最先端のスペックより圧倒的なコストパフォーマンスを追求し、「最初の一台」として広く支持されました。

Eufyは2023年頃から戦略を転換。これまでのコスパ路線を維持しつつ、自動ゴミ収集・モップ洗浄ステーションを備えたフラッグシップモデル「X10 Pro Omni」や、回転ローラーモップを搭載した「Omni E25」などを投入し、RoborockやDreameがひしめくハイエンド市場への本格参入を果たしました。独自の「AI.See」障害物回避システムなど、自社で培ったAI技術の応用にも積極的です。

DJI(大疆創新):異業種からの脅威

世界最大のドローンメーカーであるDJIが2025年に市場に参入したことは、既存プレイヤーに大きな衝撃を与えました。ドローンで培った精密な自律飛行・空間認識技術がロボット掃除機にどのような革新をもたらすか、業界全体が注視しています。

5. レッドオーシャン化する市場:価格競争と生き残り戦略

激化する価格競争

中国メーカーが世界を席巻した一方で、市場そのものは極めて厳しい競争環境、すなわち「レッドオーシャン」と化しています。市場規模自体は堅調に成長を続けており、2025年前三半期の中国市場の出荷量は前年比27.2%増の463万台に達しました。しかし、製品の平均小売価格は下落の一途をたどっています。2024年1月の平均価格は約4,520元(約9.2万円)だったのが、同年7月には3,000元(約6.1万円)以下の製品が過半数を占めるようになりました。2025年現在、最も商品が集中する価格帯は3,000元前後です。

この価格競争はメーカーの収益を直撃しています。世界シェア首位のRoborockでさえ、2025年第1四半期は売上高が前年同期比86%増であるのに対し、純利益は33%減という「増収減益」に陥っているのです。背景には、半導体等の原材料費高騰、熾烈な機能競争に伴う研究開発費の増大、そして価格下落による収益圧迫という三重苦があります。

石头科技:2025年第一季度报告

新規参入が止まらない過当競争

日本メーカーのロボット掃除機はかなり下火になっている

普及率が中国で6.9%、米国で15%とまだ成長余地があると見られていることから、新規参入が後を絶ちません。2025年には、世界最大のドローンメーカーであるDJIが市場に参入し、業界に新たな波紋を広げています。既存メーカーは、気を抜けば瞬く間に淘汰される危機感の中にあります。

実際、かつて技術先駆者として名を馳せたNeato Roboticsは、レーザーナビゲーションの先駆者として「D型」デザインで知られていましたが、2023年に事業閉鎖を発表。2025年にはサーバー停止によりアプリが使用不能となるなど、IoT家電の衰退に伴うリスクを顕在化させる結末を迎えました。

また、パナソニックや日立などの日本国内大手も、開発サイクルの速い中国メーカーに追随できず、独自の技術革新を見せられない状況。残念ながら日本メーカーのロボット掃除機は2019年と2021年に発売された製品が売られているのみです。

6. 未来への挑戦:多角化と次世代技術

生存をかけた多角化戦略

過当競争と利益率悪化に直面する主要メーカーは、生き残りをかけて大胆な事業多角化を推進しています。

Dreame:最も野心的な挑戦

Dreameは2025年、エアコンや冷蔵庫などの大型家電市場に進出すると同時に、超高級EV市場への参入を発表しました。ブガッティ・ヴェイロンをベンチマークにした自動車を2027年に発売予定としており、ロボット掃除機で培ったモーター技術やAI技術の転用が期待されています。

Roborock:苦戦する多角化

极石01

Roborockも自動車「極石01」や洗濯機事業に進出していますが、いずれも苦戦しています。自動車事業は販売が伸び悩み、洗濯機事業では2025年に大規模なリストラを実施しました。ただし、智能芝刈りロボットは成長市場として期待されています。

Ecovacs:最も成功している多角化

Ecovacsは洗浄機ブランド「添可(Tineco)」を独立・成長させ、ロボット掃除機に加えて洗浄機市場でも成功を収めています。これにより、クリーニング家電全般における存在感を高めており、現在最も成功している多角化事例となっています。既存の強みを活かした自然な拡大が功を奏しています。

まとめ:次の10年を制するのは誰か

Dreameもアーム付きのロボット掃除機を開発中

ロボット掃除機の歴史は、わずか20年余りの短い期間に、驚くべき進化と市場の激変を経験しました。2002年にiRobotが発売した初代ルンバから始まったこの市場は、2025年現在、中国メーカーが完全に支配する状況となっています。

この変革の原動力は、一貫して「人間の手間をゼロに近づける」という追求にありました。LDSマッピング、自動ゴミ収集、AI視覚、可変アーム、モップ自動洗浄といった各技術は、その階段を一段ずつ上るための具体的手段であり、中国メーカーはこれらの技術を驚異的なスピードで実用化し、価格を民主化してきました。

同時にこの10年は、中国メーカーが、オープンなサプライチェーン、アジャイルな開発体制、そして過酷な国内競争で鍛えられたコスト競争力を武器に、グローバル市場の秩序を書き換えた「興亡史」だったと言えるかと。iRobotの買収劇は、製造(OEM)とブランドの力関係が逆転し得ることを示す象徴的事件と言えるかも。今後のロボット掃除機市場の10年がどのようになるか、要注目です。

本記事は星影(@unsoluble_sugar)さんが主催するガジェ獣 Advent Calendar 2025の2日目の記事です。執筆にあたってはDeepseek、Claudeの2つのAIによる徹底的な補助を受けています。(というか大半はこの2つが書いています。すごいですね、今のAI)12月15日はねじまきさんの任天堂の目覚まし時計「アラーモ」がおすすめ。でした。明日は引き続き私あーるが担当します。

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銀行をやめて人材系のHRテックらしいメガベンチャーにいたかと思えば、今はSIerで企画とかしています