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【ガジェ獣】INNOCN深圳本社インタビュー|OEM製造で培った技術力とコスパが魅力。AcerやXiaomi製品も手がける中国発ディスプレイブランドINNOCNの実力を徹底取材

在宅ワークやクリエイティブ作業をする方にとって、モニター選びは作業環境の快適さを左上する重要な要素。最近では中国発のディスプレイブランドが多く日本市場に進出しており、Amazonを始めとする通販サイトで見かけるようになりました。今回は高品質な製品を圧倒的なコストパフォーマンスで提供することを目指して展開を始めた「INNOCN(イノセン)」をご紹介します。

INNOCNは2014年に中国・深圳で創業された「世紀联合创新グループ」が展開するディスプレイブランド。AcerやMSI、Xiaomiといった大手ブランドのOEM/ODM製造で培った深い製造技術とサプライチェーン管理能力を基盤とし、北海、湖北をはじめとする中国国内の自社ネットワークで生産を行っているメーカー。単なる低価格戦略ではなく、プロユースに耐える厳格な色彩精度と圧倒的なコストパフォーマンスの両立が最大の強み。日本のAmazonでも販売を拡大しており、見かけることが多くなったガジェットメーカーです。

今回は深圳にあるINNOCNの本社を訪問し、INNOCNのXinwei氏に日本市場に対する思いや製品開発の哲学についてお聞きしてきました。創業からわずか10年で従業員300人超、年間生産額2億元(約40億円)を突破し、260項目以上の国家特許を取得するまでに成長した同社。ドイツのiFデザイン賞、レッドドットデザイン賞、日本のグッドデザイン賞など、国内外の主要デザイン賞を多数受賞するなど、その技術力とデザイン力は国際的にも認められており、なかなか気になるメーカーでした。

本記事は星影(@unsoluble_sugar)さんが主催するガジェ獣 Advent Calendar 2025の18日目の記事です。昨日12月17日は同じくあーるの渾身のレポート、「【ガジェ獣】ロボット掃除機の興亡史:iRobot破産申請から見る業界の大転換と、中国メーカーが切り拓く次世代への道」でした。明日はらいふうっどさんです。

OEM/ODMで培った製造力が強み。AcerやXiaomiの製品も手がける実力派

INNOCNを運営する「世紀联合创新グループ」は、2014年3月に深圳市で設立されたディスプレイ・ソリューション・プロバイダー。創業初年度から年間生産額2億元(約40億円)を突破するなど、市場の受け入れと事業基盤の迅速な確立を示してきた実力派メーカーなんです。現在では従業員数300人超の規模に急成長しており、設立から数年で80項目以上、その後260項目以上の国家特許を取得するなど、技術開発企業としての顔も持っています。

公式サイトにも有名メーカーが並ぶ

同社の最大の強みについて、Xinwei氏は「OEM/ODM事業で培われた深い製造ノウハウと規模の経済効果に根ざした圧倒的なコストパフォーマンスにある」と語ります。Acer、MSI、Xiaomiといった要求水準の高いブランド向けに製品を製造する過程で、部品調達、生産管理、品質保証に関する高度な効率化と標準化を実現してきたんだとか。この「隠れた製造力」を自社ブランドに転用することで、開発から製造までの総コストを圧縮しているわけです。

同社の事業モデルの特徴は、自社ブランド事業と大手企業へのOEM/ODM事業を両輪としている点。自社ブランドとしてはINNOCNに加え、主にゲーミングユーザー向けの「Titan Army(泰坦軍団)」、その他の製品カテゴリーを扱う「INNOBILD」など、複数のブランドを用途に応じて展開しています。一方でOEM/ODM事業では、Acer、MSI、Xiaomi、Skyworth(創維)、Changhong(長虹)など、国内外の主要ブランドの製品製造に関与していることが公式に記載されており、その製造技術力とサプライチェーン管理能力の高さを裏付けているわけです。

グループは早期から国際展開を視野に入れ、2015年には香港联合创新科技有限公司を設立。これは金融・貿易の窓口としての役割を担っているとのこと。また、台北事務所の設置も確認されており、大中華圏における技術・ビジネス交流の拠点としています。近年では、INNOCNブランドは東南アジア市場において一定の存在感を示し始めており、中国ディスプレイメーカーの海外進出(「出海」)のトレンドを体現する後発の有力企業として業界アナリストから言及されているとのこと。

例として挙げると、32インチ4K OLEDプロフェッショナルモニター「32Q1U」は、JOLED製印刷方式OLEDパネルを採用し、ΔE<1の超高位色精度を実現しながら、2023年発売時の価格は人民元9999元(当時約20万円)に設定されました。Xinwei氏によれば、「当時、同等クラスの海外ブランド製品が2万元を超える中で、約半額以下という価格破壊を成し遂げた」とのこと。グループの調達力と製造効率が、最先端技術を手の届く価格で市場に投入することを可能にした好例で、「デスクトップOLEDモニターの普及を先導する」と報じられるなど、技術の民主化を実現できたんだとか。

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TITAN ARMY

「美術専用モニター」として色精度にこだわる製品開発

INNOCNが他のモニターブランドと一線を画すのが、「美術専用モニター」という明確なカテゴリーで差別化を図っている点。その核心は「正確な色」への徹底的なこだわりにあります。Xinwei氏は製品開発の目標について、「ゲーマーやグラフィックデザイナーなど、用途を問わず顧客の役に立つモニターを提供すること」と説明し、「特に色精度については、AppleやSamsungのモニターに匹敵するレベルを目指しつつ、合理的な価格で提供することを重視している」と語ります。

INNOCN 27C1U Superでもキャリブレーション報告書が入っていた

全てのプロフェッショナル向けモデルは、工場出荷時に一台一台独立した色彩校正が施され、校正報告書が同梱されるのがポイント。例えば、エントリーモデル「29C1F」でもΔE<2を保証し、ハイエンドモデル「32Q1U」ではΔE<1を達成しているんだとか。色域についても、sRGBに加え、デジタルシネマのDCI-P3、印刷・写真のAdobe RGBなど、異なるワークフローに応じた広色域カバー率を公表しており、クリエイターの多様なニーズに応えています。

一部モデルは、赤・緑・青の3原色に加え、シアン・マゼンタ・イエローまで含めた6軸カラー調整をサポートし、プロのクリエイターによる微細な色合わせを可能にしているとのこと。また、出荷前のBU&CU(輝度・色温度均一性)技術の適用や、厳格なピクセル不良チェックなども製品レビューで高く評価されているポイント。自社工場での一貫管理により、このレベルの品質保証が可能となっているわけです。

同社は単なる組み立てメーカーではなく、「ディスプレイ端末のR&D、生産、販売の一体化」を標榜する通り、企画・設計から最終製品化までを自社でコントロールする高い垂直統合度を持つのが特徴。これは迅速な製品化と厳密な品質管理で強みとなっています。Xinwei氏は「市場の技術トレンド、例えばMiniLEDやJOLEDパネルをいち早く察知し、自社の設計・製造リソースを集中投入することで、競合に先駆けた製品投入を実現できる」と説明し、この迅速さが最先端技術を手頃な価格で提供できる理由の一つだと強調していました。

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日本市場で人気なのはMiniLEDシリーズ。コスパと画質を両立

MiniLEDを採用した新商品 INNOCN GA27T1M

日本市場でのINNOCNの販売状況を見ると、特にMiniLEDモニターのラインが好評とのこと。Xinwei氏によれば、「日本市場ではMiniLEDモニターのラインが非常に好評」で、「日本のお客様の反応を分析すると、OLEDの美しさは理解されているものの、価格が大きな障壁になっている様子」なんだとか。その点、MiniLEDは美しさとコストパフォーマンスを両立できるため、多くの方に選ばれているわけです。

実際、日本市場の特徴として、過去3〜4年は「最も安いもの」を選ぶ傾向が強かったものの、最近は変化が見られます。多くのブランドが高品質ディスプレイを低価格で市場投入したことで、消費者が美しさ(画質)を理解し、MiniLED、OLED、VAパネルなど高品質系を選択する学習が進んできたわけです。日本では「コストパフォーマンス」を重視する傾向が強く、実際OLEDはMiniLEDの2倍程度の価格になってしまうため、多くの方は購入が難しいというのが実情。市場は「高品質・合理的価格」へ移行中という印象があります。

私の自宅のテレビもかなり古いものの東芝のMiniLED採用品

興味深いのは、日本には東芝などが10年以上前からMiniLEDテレビを展開してきた歴史があり、MiniLEDは消費者にとって馴染みのある技術で、改めて教育を必要としない受容性がある点。一方、OLEDについてもSamsungやLGによる供給期間の長さが認知拡大に寄与しています。こうした土壌の上で、INNOCNのような新しいブランドが高品質×合理的価格の製品を提供できれば、日本の消費者にも受け入れられる可能性が高いわけです。

Xinwei氏は同社の目標について、「各価格帯で市場で買える中でも最も高いパフォーマンスのモニターを提供すること」と明言。例えば、40,000円で良好なモニターが買える市場感に対し、同価格帯でより高い品質を提供したいとのこと。20,000〜30,000円といった各レンジでも同様で、「日本の消費者の方々は、単に価格だけではなく、製品の性能や品質に対しても厳しい目を持っていらっしゃる。そのニーズを満たすことが重要」と語っていました。

INNOCNの製品ラインナップ。用途別に体系化された6大シリーズ

INNOCNは、自社でパネルを生産するのではなく、市場で入手可能な最適なパネルを素早く製品化することに長けているんだとか。その製品体系は、用途別に6大シリーズに整理され、明確な選択肢を提供しているのがポイント。

シリーズ名主な特徴代表モデルターゲットユーザー
16:9 プロフェッショナル美術モニター標準的なアスペクト比、高解像度(4K/QHD)、高色精度27C1U, 28D1U写真編集、グラフィックデザイン、一般事務
21:9 ワイドスクリーン横長画面でマルチタスクや映像編集のタイムライン表示に有利29C1F, 40C1R映像編集者、マルチタスクオフィスワーカー、ゲーマー
32:9 スーパーワイドスクリーン2台分の画面を一体で提供、没入感が高い44C1G, 49C1Gデイトレーダー、シミュレーションゲーマー、上級クリエイター
MiniLED モニター数千個の局所調光エリアにより、超高輝度・超高コントラスト(HDR1000)を実現27M2U, 27M2VHDRコンテンツ制作、高精度デザイン
OLED モニター自発光による完全な黒、極めて高いコントラスト、高速応答32Q1U最高画質を求める写真家・映像作家、ハイエンドユーザー
ポータブルモニター薄型軽量、USB-C一括給電・信号伝送、タッチ対応モデルもN2F PRO出張者、リモートワーカー、ゲーム機ユーザー
13.3インチ・有機ELのモバイルモニターが1.4万円。やすい

この体系的なラインナップは、「どのような仕事を、どのような環境でするのか」というユーザー視点に立った設計思想を反映しており、中国のZOLや太平洋電腦網などの主要ITメディアでも高く評価されているんだとか。

プロフェッショナル向けの非常に高品質なモニターについては、企業やプロユーザーはAmazonを経由せず、オフラインチャネルや地元の販売代理店、メーカー直販などを通じて購入する傾向があります。例えばEizoのFlexScanのような製品がその典型例。Xinwei氏は現状について、「クラスCのブランドとして認識されているかもしれないが、クラスBのブランドになることを目指している」と語り、製品の品質だけでなく、ブランド認知度の向上も重要な課題として認識しているようです。

また、日本のAmazonストアではポータブルモニターも最も人気のカテゴリーの一つで、販売データを見ても強いパフォーマンスを示しているんだとか。出張が多い方やリモートワークをされる方に支持されているようです。総じて、日本の消費者は「コストパフォーマンス(価格対性能)」を最重視し、近年は各ブランドがより安価に高品質ディスプレイを市場投入したことにより、美しさと価格のバランスに優れた製品を選ぶ傾向へ変化しているわけです。

深圳本社に加え、北海・湖北など中国国内に自社工場を展開

INNOCNは3箇所の工場を擁する

INNOCNの強みの一つが、中国国内に確固たる生産基盤を構築している点。深圳に研究開発と管理の本拠を置きつつ、生産機能を中国国内の複数地域に分散配置する「本社+複数生産拠点」モデルを採用しているんです。グループ全体で3つの自社工場を保有しており、500人以上のエンジニアチームを擁しているとのこと。

2015年1月には広西チワン族自治区北海市政府と「联合创新顯示產品製造項目」を締結し、3月には北海世紀联合创新科技有限公司が正式に設立され、同地の製造基地が生産を開始しました。これは、深圳本社以外に初めて設立された生産拠点であり、生産能力拡大とコスト最適化の本格的な第一歩となったわけです。

2016年6月には湖北省宜昌市政府と同様の製造プロジェクト契約を締結し、9月には深圳本社を「中粮商務公園」に移転。企業規模の拡大に伴うオフィス拡張を進めました。その後、北海、湖北に加え、雲南省、貴州省にも子会社を設立しており、中国南部から西南部にかけて生産ネットワークを分散配置。これにより、リスク分散、人件費・用地コストの最適化、地域ごとの政策優遇を活用した効率的な生産体制を構築しているとのこと。

深圳本社では企画・設計から最終製品化までを自社でコントロールする高い垂直統合度を持っており、これが迅速な製品化と厳密な品質管理を可能にしているわけです。パネルについては、SamsungやLGといったサプライヤーから調達しているものもあり、特にOLEDモニターのパネルは主に外部サプライヤーから購入しているんだとか。一方で、IPSパネルやMiniLEDパネルについては、外部からの購入と自社生産の両方を行っているとのこと。Xinwei氏によれば、「自社でパネルを生産することが、コスト効果的なディスプレイを作る重要な戦略の一つ」になっているわけです。

また、同社は研究開発とテストに大きく投資しており、より手頃な価格のモニターラインであっても高い色精度を確保するようにしているんだとか。自社工場での一貫管理により、高いレベルの品質保証が可能となっています。

日本向けには専用サイトを準備中。本気で日本市場に取り組む姿勢

色々と思うところのある日本向けWEBサイトもある…

INNOCNは日本市場に対して本格的に取り組む姿勢を見せていたのもポイント。Xinwei氏によれば、昨年同期比で売上が20%増加しており(例えば2023年9月と2024年9月の比較)、この成長はAmazonでの販売のみで達成したものとのこと。「アメリカは私たちにとって最も重要な市場ですが、日本も非常に重要な市場と位置づけています」と語ります。

そのための具体的な施策として、日本市場により良いサービスを提供するために、専用の日本語ウェブサイトを立ち上げる計画があるとのこと。日本の消費者はブランド情報を重視する傾向があるため、これは非常に重要な取り組みです。「新しいウェブサイトは近日中にローンチする予定で、日本の消費者の方々にとって製品情報が日本語で提供されることは大きな安心材料になる」とXinwei氏は説明していました。

東京ゲームショウにはTITAN ARMYが出展

日本の消費者は、購入前に実際に製品を見て触れたいと考える傾向があり、同社はオフラインチャネルと展示会への参加を組み合わせることで、INNOCNの製品品質を実際に体験していただく機会を増やしていきたい考えとのこと。例えば、Amazfitというスマートウォッチブランドは、強力な地元販売代理店と提携してオフライン販売を行うことで、日本市場で成功を収めた事例があります。

KTCは2024年のゲームショウに出展し、一気に日本での知名度を向上させた

興味深いのは、パネルの供給元を明示することの重要性について理解を深めている点。日本の消費者は材料の出所に注意を払う傾向があり、パネルがSamsungやLGから来ていると分かれば、すぐに品質への安心感が得られるわけです。実際、KTCは、日本に来たばかりでオフラインストアもないにもかかわらず、東京ゲームショーに出展し、パネルがLG製であることを強調することで大きな人気を獲得した事例があります。

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圧倒的なコスパと高品質を両立するINNOCNは要注目

MiniLEDを採用しつつ薄型デザインのINNOCN GA27T1M

今回お話をお聞きしてきたディスプレイブランド「INNOCN」。2014年に深圳で創業された世紀联合创新グループが展開するハイエンド・クリエイター向けディスプレイブランドで、AcerやXiaomiなどのOEM/ODM製造で蓄積した深い製造技術とサプライチェーン管理能力を基盤としているのが特徴でした。北海、湖北をはじめとする中国国内の自社ネットワークで生産を行い、その垂直統合に近い製造力によって「圧倒的なコストパフォーマンス」と「厳格な色彩精度」の両立を実現しているわけです。

260を超える特許と国際的なデザイン賞(ドイツのiFデザイン賞、レッドドットデザイン賞、日本のグッドデザイン賞など)は、その技術力と製品開発力を裏付けるもの。製品戦略は機敏で、市場の最新パネル技術をいち早く取り入れ、用途別に体系化されたラインナップを構築しているのも魅力的なポイント。

「高品質×合理的価格」という明確なポジショニングで、日本市場のニーズに応えようとするINNOCN。中国のディスプレイ産業が「世界の工場」から「技術革新を伴うブランドの発信地」へと変貌を遂げる潮流の中で、その可能性を体現する先駆的な存在として、今後も注目していきたいブランドでした。

本記事は星影(@unsoluble_sugar)さんが主催するガジェ獣 Advent Calendar 2025の18日目の記事です。昨日12月17日は同じくあーるの渾身のレポート、「【ガジェ獣】ロボット掃除機の興亡史:iRobot破産申請から見る業界の大転換と、中国メーカーが切り拓く次世代への道」でした。明日はらいふうっどさんです。

2015年から参加している過去のガジェ獣はこちら

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銀行をやめて人材系のHRテックらしいメガベンチャーにいたかと思えば、今はSIerで企画とかしています