
2025年5月13日、東京都内でアリババの新たなECアプリ「TAO(タオ)」の日本市場参入発表会が開催。すでに当ブログでも多くの商品を紹介している越境ECプラットフォームAliExpressの運営元であるアリババが、日本向けにまったく新しい通販サイトを構築。「最高のクローゼット(Your Best Closet)」をコンセプトに掲げるTAOは、アリババの先進的なAI技術と淘宝(タオバオ)の膨大な商品ラインナップを活用し、日本のファッションEC市場に革命をもたらすことを目指すんだとか。今回はこのTAO発表会に参加してきたのでそのレポートをお届けします。


会場では、TAOビジネス統括責任者の葉剣秋氏、アリババ国際デジタルコマースグループ副総裁・アリババデザイン委員会委員長の杨光氏、UIデザインを手掛けた田中良治氏、アリクラウド Tongyiラボの徐栋氏、市場運営責任者の劉慧娟氏、プラットフォーム運営責任者の何玫氏、アリババ国際アパレルカテゴリ責任者(日本・韓国)の陳琳娜氏が登壇。アリババのグローバル技術力と日本向けの戦略を語りました。特徴的だったのが、AIを活用してチャットや当日の気分などに応じてファッションスタイルや、おすすめの製品を提案してくれること。田中氏によるシンプルなデザインで、日本人好みの仕上がりになりつつアリババの技術を組み合わせたそんなサービスになっているように感じました。
アリババのグローバルでの実績を踏まえて実現する、日本市場でのTAOの壮大なビジョン

発表会の冒頭、TAOビジネス統括責任者の葉剣秋氏が登壇。アリババのグローバルな実績とTAOの日本戦略を語りました。アリババは全世界で16億人以上のユーザーを抱え、淘宝は50億点以上の商品を誇るECプラットフォーム。毎日数百万点の新作が追加されるスケールで世界でもトップクラスのECプラットフォームになっています。
日本では2008年から産業支援を行っており、今回TAOの展開に向けて2024年に淘宝日本株式会社を設立。(アリババ株式会社自体は日本ですでに設立済み)「TAOは日本の品質志向やSNSのキュレーション文化に応える」と葉氏は強調していました。日本のEC市場においては、アリババの浸透率は2024年第2四半期で20%未満。楽天とAmazonがシェアの70%を占めており、TAOがこの市場の選択肢を広げ、価格を下げると宣言しました。
日本の美意識である「シンプル&機能美」を追求したデザインを実現

TAOのデザインについては日本の美意識である「シンプル&機能美」を尊重しつつ、アリババの技術力」を語るのはアリババ国際デジタルコマースグループ副総裁でアリババデザイン委員会委員長の杨光氏。日本のミニマリズムや侘び寂びにインスパイアされたビジュアルアイデンティティを強調。TAOのロゴは、流れるような曲線で「クローゼットを開く瞬間」を表現し、アプリのカラーパレットは日本の四季を反映した柔らかな色調を採用しているとのことでした。

UIデザインを担当した田中良治氏も登壇。TAOのUIに関してはシンプルさと機能性を両立して、直感的でストレスフリーな操作性を重視したとのこと。ホーム画面についてもミニマルなレイアウトにして、商品やAI提案を一目で分かる構成にし、アイコンについては日本では一般的なフラットデザインに。UI自体は生き物だと思っており、今後ユーザーのフィードバックを踏まえながらどう変化していくのかも楽しみだと語りました。
Z世代や中産階級のコストパフォーマンス重視のニーズに答えるTAO

TAO市場運営責任者の劉慧娟氏(Karen Liu)は、日本市場向けの現地化戦略とユーザー体験を詳細に解説。「跨境+現地化」のモデルで、楽天やZOZOではカバーしきれていない選択肢の少なさやインタラクティブ性の不足に対してアプローチするとのこと。予算内でトレンドを追求したいというニーズのあるZ世代や中産階級のユーザーに対して、「コスパも自分らしさ」のどちらも実現することを目標にしているとのこと。


あくまでも越境プラットフォームとして、販売する商品自体は淘宝の50億のSKUから販売商品を選定。InstagramやTikTokのトレンド、Vogue JapanやNon-noのファッション特集、さらには日本のKOL(キーオピニオンリーダー)の意見をリアルタイムで分析して、日本のユーザーの嗜好にあわせて製品選定を行う専任チームをひ地しているんだとか。日本の「暮らしのキュレーション文化」に合う形の製品を確保しているとのこと。



日本国内外のパートナーシップも強固に確立させることで、越境ECでありながら国内通販と大きな差異のない体験を実現させているのも特徴的。物流面ではヤマト運輸と佐川急便、決済はPayPayとJCB、カスタマーサポートについては国内で銀行を始め多くのコールセンターを請け負うトランスコスモスと提携し、日本人が安心して利用できる体制を実現しました。AliExpressでは雑な梱包がよく見られますがTAOではシンプルなパッケージを用意。ECのワクワク感も大事にするようにしているとのこと。

なお、劉氏が当日着用していた服もTAOで購入できるMixEのセットアップは定価で約14,000円。JCB利用の割引などを組み合わせることで13,000円ほどで購入できるんだとか。同じようなものを日本のブランドで購入すれば14万円はするので、TAOなら1/10で購入できる!とTAOの安さをアピール。この感覚、センスはいかにも中国らしい印象です。
淘宝の1億点の中から厳選した500万SKUで、多様なトレンドと個性に対応するラインナップを実現

アリババ国際アパレルカテゴリ責任者(日本・韓国)の陳琳娜氏からは、TAOの服飾ラインナップを紹介。淘宝の1億点以上の商品から、日本向けに三重の選定システムで厳選した500万SKU(毎日1万点追加)を展開。「最安値ではなく、適正価格で高品質」を追求し、ユニクロやGUの低価格帯とハイブランドの間を埋めていくとのこと。



この三重の選定システムでは、①ビッグデータ分析(淘宝での出品者の品質スコア、発送速度、顧客評価などの30指標・不良品率0.5%以下や、配送信頼性95%以上など)、②トレンドの反映(InstagramやTikTok、Vogue Japanのトレンドの参照)、③日本チームでの最終チェック(20~40代のニーズや季節性の反映)を実施。これによって、淘宝の商品の中から日本のユーザーのニーズや、品質に対する要求をクリアできるようにしているとのことでした。


TAOでは、中国の低価格でありながら高品質なブランドを多く販売。実用的ベーシックなスタイルなら1,000円台のTシャツやデニムを展開するMixEブランドが、高品質なオフィススタイルなら5,000円ほどのLewelのブレザーを、個性的なデザインならストリートファッションもカバーできるTD Modaの3,000円ほどのジャケットも用意。どんなスタイルにでもTAOならお手頃価格で対応できるというわけです。
QwenのAIコーディネートで、無限のスタイルを提案するファッションECの未来

TAOプラットフォーム運営責任者の何玫氏は、アリババの最新AI「Qwen(通義千問)」による「AIファッションコーディネートアシスタント」の革新性を説明。Qwenは、自然言語処理(NLP)と画像認識を統合した大規模言語モデルで、アリババクラウドの百炼プラットフォームと連携。50億点の商品データとユーザーの好みをリアルタイムでマッチングし、50TOPSの演算性能で楽天やZOZOの検索エンジンを凌駕する性能を実現しています。



TAOには3つのAIエージェントを搭載。1つ目は「AIファッションコーディネートアシスタント」で、体型や好みを分析し、3秒でコーディネートを提案できるというもの。例として「秋のデートコーデ」をリクエストすると、暖色ニットとワイドパンツが即表示。2つ目の画像検索は、街のドレスの写真をアップロードすると類似アイテムを提示し、すぐに購入できるようになっています。
3つ目の「AIライフアシスタント」はキャンプやペット用品など、ファッションだけでなくライフスタイルについてもサポートするもの。AI趣味マスターで最適なペットグッズやアウトドア用品をピックアップすることが可能となっているわけ。
AIとチャットしながら商品を見つけられる新体験。サービス自体はまだ荒削り


実際にTAOのアプリを開いてみると、越境ECの定番のAliExpressと比べて圧倒的にシンプルなUIが特徴的。配色も落ち着いた色使いに仕上がっており、アイコンもフラットデザインで現代風のデザインになっています。”毎日運勢”のタブの中のイラストもどこかしら日本らしいシンプルなアイコンになっていました。




AIを活かしたプランで面白いのがスタイル診断。自身のスタイルについて8つの質問に回答することで、コーディネートのテーマを見つけてくれるというもの。このスタイル診断については女性向けのみで、29歳男性の私が若干適当に入れた結果は「キャラメルプリン」という結果に。毎日のコーディネートの提案もしてくれ、それぞれのおすすめの商品もピックアップしてくれるのは面白い印象でした。



TAOアプリは女性専用、と思っている男性諸氏もご安心。チャット形式で利用できるAIパートナーはTAOアプリの設定から性別を登録しておけばきちんとメンズアイテムを(たいていは)提案してくれるようになっています。例えばファッションアドバイザーAIのMilaに「夏に元気に見える服装」を聞いてみればコーディネートの基本ルールとして明るいトーンのカラーを取り入れたスタイルを提案してくれます。



このほか、スプリチュアルアドバイザーのEllyは自分の星座にあったコーデを提案してくれる、まさにスピリチュアルなものに。また、マイアシスタントのTaochiは、自由にメッセージを送ってコーデのおすすめを教えてくれます。意外と妥当なアドバイスをして、コーデの基本ルールや、おすすめのコーデ例を提案してくれるのはアリかも。
TAOが切り拓くAIをフル活用した新しいファッションスタイル

今回レポートしたTAOの発表会では、これまでのファッションECサイトがあまり取り組んで来なかったAIをフル活用した新たなファッションスタイルを提示してくれました。利用者の情報に基づいたコーディネートの提案だけでなく、画像での検索や、AIライフアシスタントでこれまでの通販では実現できなかった新たな商品との出会いを実現してくれる印象です。
また、様々な評判が飛び交う中華系通販のTEMUやSHEINとは異なり、アリババグループが中国国内のEC・淘宝網や、越境ECの先駆けのAliExpressで培ったECに関する知見と、日本国内の現地メンバーの意見を組み合わせることで、日本のユーザーのニーズを満たすサービスを目指したTAO。まだ、AIの主なターゲットは女性向けであったり、会話は続かない点は気になりますが、今後の日本での展開が楽しみ。

5月16日からはポップアップストアを表参道で開催予定。5月25日までの10日間にわたって、アプリ内で開催する「TAOファッション・ウィーク」をテーマに、TAOの提案する最新のファッションを陳列。事前にTAOで買い物をして参加すれば、ポイントが当たる抽選キャンペーンも開催するんだとか。当ブログの読者で刺さる方がどれだけいらっしゃるかはさておき、興味のある方は訪ねてみては。