今回はそんなワイヤレスイヤホンの中でも、音質を最重要視した製品であるFiiO FW3を購入したのでレビュー。これまでもFiiOは有線のモデルから多くのイヤホンを投入しており、近年はワイヤレスイヤホンや、日本ではお蔵入りになってしまったFiiO EH3 NCを皮切りに多くのヘッドフォンも登場させています。そんななか満を持して登場したのがFiiO FW3です。
DAC/アンプの統合チップと10mmダイナミックドライバーで高音質を志向した製品
FIIO FW3の特徴について簡単に解説。FIIO FW3はFIIOの完全ワイヤレスイヤホンのミドルレンジに当たるモデル。2022年12月に登場したフラグシップモデルFIIO FW5の弟分に当たるモデルで、ドライバーの構成や素材が異なるもののFW5と同様に高音質を志向したこだわりが詰まったモデル。
最大の特徴と言えるのが、通常のワイヤレスイヤホンではBluetoothチップと一体化したSoCを使うことが多いDACとアンプ部に専用DACチップである旭化成AK4332を採用していること。当然イヤホンの本体が左右に分かれるためそれぞれにAK4332を採用し、SoCに左右されずに高音質を実現し、S/N比は最大106dB、ダイナミックレンジ最大102dBという性能を確保しています。
当然その高音質なDAC・アンプ部から出力された音を再生するドライバー部もポイント。自社開発のカーボンファイバー振動板を利用した10mmダイナミックドライバーによって、素早い応答性と歪みを効果的に抑制し、ダイナミックドライバー1基でも透明感と伸びのある音質を実現しているとのもの。
上位モデルであるFIIO FW5と比べるとドライバー部がスペックダウン。FW5ではダイナミックドライバー1基(PU+DLC)+バランスド・アーマチュアを2基搭載。これにより、BA型ならではの高音域表現と、ダイナミックドライバーによる深くキレの良い低域を実現しているんだとか。実売価格はFW3が1,5000円ほど、FW5が21,000円ほど(国内正規品)です。
大柄なものの耳にぴったりフィットする装着感が魅力。イヤーチップはコンプライがオススメかも
FIIO FW3はFIIOの完全ワイヤレスイヤホンの製品群の中のミドルレンジの製品。パッケージについても気合が入っており、クリームとグレーのツートーンのパッケージには製品のイメージと、背面には本機が対応するQualcommによるオーディオ技術であるSnapdragon
Soundのロゴも掲載。
今回はFIIOの国内正規代理店であるエミライの取扱品を購入。このため、バーコードについては日本正規代理店品である旨の表示に切り替えられています。
パッケージ内には本体や充電用USB Type-Cケーブルのほかにクイックスタートガイド、保証書、さらに簡易的な利用ガイド、そして5種類のイヤーチップが付属。あらかじめ一つイヤーチップはついているため、S/M/Lの3つの大きさを2種類のイヤーチップで利用できるようになっています。
なお、イヤーチップについては通常のシリコンイヤーチップと、医療用シリコンを採用した超薄型ソフトイヤーチップであるFIIO
HS18を付属。耳に接する部分であるアウターカバーを0.4mmと薄くしたことで装着感を高めているんだとか。ただ、あくまでも個人的には、イヤーチップを薄くしたから装着感が高まるかといえば必ずしもそうなのではないのかと感じています。(後述)
説明書については日本語版も付属。写真でも触れていきますが本機は再生/一時停止や曲送り、曲戻しなどの操作を物理ボタンを利用して行うタイプ。そのため、最初はその操作方法は簡単に確認できると便利なもの。イラスト付きの説明書で分かりやすくその操作方法を確認できました。
今回購入したのはホワイトのモデル。イヤホンは黒色の製品がどうしても多くなってしまいますが、白色というのも耳元にほどよく映えてくれるかと。ケース自体はこじんまりとした形状で、バッテリー残量を確認できるインジケーターが側面にある程度のシンプルなもの。ケース側のバッテリー容量は380mAhでした。
ケースの後ろ側には充電用のUSB Type-C端子が配置。ケースの充電は5V/1Aの入力で行い急速充電には非対応です。また、技適マークと登録番号はシールで貼付されていました。
充電ケースをあけると自動的にペアリングモードへ移行。そのまま取り出せば、スマートフォンとペアリング済みであればすぐに利用できます。充電ケースのイヤホンの収納部は、本体の形状に合わせてかなり深めになっており、純正イヤーピース以外でも収納できるレベルの大きさを確保しています。
本体はワイヤレスイヤホンの中では大柄なデザイン。外側にはスリットが入っておりスタイリッシュな見た目になっているのも特徴的です。ハウジング部分は、10mmの大口径ドライバーが格納されていることもあり大型の構造に仕上がっています。
イヤーチップを取り付けているノズル部分も口径が大きいだけでなく、若干長め。実際に耳に付けてみると、ハウジング部の大きさもあってかちょっと耳から飛び出すような感じで装着することになります。
個人差があるとは思いますが、付属しているイヤーチップではHS18では柔らかすぎ、通常のシリコンイヤーチップでも、本体が大型で耳孔で本体を支えなければならない割には貧弱で装着感が微妙。ピッタリ耳にはまってくれず、頭を動かすとそれに合わせてイヤホンが動いてしまい、さらに動きが出ることで耳が痛くなりやすいという負のコンボ。また、隙間ができることで本来の音質を発揮できないというのも気になりました。
利用にあたって私の場合はComplyのイヤーチップを購入。ノズル部分の口径が大きいため、大口径のT600を購入して装着しています。Complyを利用した状態であれば、遮音性も向上させることができるため、個人的にはFIIO FW3を利用するならComplyはマストアイテムかと。付属ケースに収納する際にもComplyが干渉することはなく問題なく収納することができました。
なお、充電ケースは本体が入った状態で56g。本体は左右合計(Comply装着時)で12.5gと結構軽量でした。このため、きちんと耳に合わせた状態で装着することができれば長時間付けていても苦はならないという印象でした。
LDAC接続でレベルの高い音場と解像感を実現。遮音性もそこそこ確保
FIIO FW3の音質についてレビューしていきますが、その前にFIIO FW3とスマートフォンやオーディオ機器との接続性能についても触れておきます。前述のようにFIIO FW3はSnapdragon Soundに対応することでQualcomm apt-X Adaptiveでビットレートを最適な範囲に調整しながら高音質な音楽伝送を行えるようになっているのが特徴的。加えて、最新のファームウェアではLDACにも対応。また、AACやLHDC、apt-Xでの接続もできるため相手先機器に応じて最適なコーデックを利用して接続できます。
今回は本機の本来の音質を試したいという意味と、実際に利用してみるとコーデックによって明らかに音質が異なることもあり、可能な限りLDACでの接続を行いFIIO FW3の音質について評価していきます。なお、音源は基本的にJriver Media Centerで自宅のメディアサーバーから「Netive Format」伝送モードでスマートフォンのXiaomi 11T Proに伝送したものを再生しています。
音質を評価する前に、FIIOが用意している設定用のアプリ、FIIO Musicについても触れておきます。本アプリはそのまま音楽を再生するプレーヤーアプリが主ですが、FIIOのイヤホンやDAPなどに接続することでその設定の操作や、リモートコントロールができるというもの。本設定画面については、若干メニューをたどった「FiiO Control」からアクセスできます。
設定画面では、充電ケースでのLEDのインジケーターの表示のON/OFFや、充電時にあえて85%までの充電とするバッテリー保護モード、遅延を最小まで抑えるゲームモードを搭載。また、Bluetooth接続時のコーデックに関しては、apt-X Adaptive、AAC、LHDC、apt-X、LDACから選択が可能。チェックマークはいくつもつけられますが、実際にはSBCとリスト内のどれかとなるため、選択時には注意が必要です。
実際にペアリングした際のスマートフォン側での設定画面は上のような感じ。LHDC有効時には高音質コーデックとして「LHDC」が、LDAC有効時には「LDAC」が表示されますが、スマートフォン側の問題なのかこのプロパティで表示されるコーデックに関しては、LDACとそれ以外は一度ペアリング自体をやり直さないとうまく反映されないようです。
FIIO FW3の設定画面からは再生時のデジタルフィルターや、左右バランス、再生時のFIIO FW3側の音量の調整、グラフィックイコライザーの設定が可能。ボリュームに関しては、スマートフォンなどの接続機器のボリュームと独立して32段階で設定ができるため、かなり細かく音量をコントロールできるのは良い感じ。イコライザは個人的には設定不要と思っているため評価は割愛します。
実際の音質を総括すると、ワイヤレスイヤホンながら解像度と、音場表現に優れ、ソリッドながら程よい厚みのある低音を実現したモデルと言う感じ。基本的にFIIOのイヤホン、ヘッドフォンは奇をてらった音作りをすることは少なく、FIIO FW3もこの傾向を良い意味で踏襲していたと言えます。実際にいくつかの音源での評価も記載します。
海の終わり – aiko
夏の終わりを一気に感じる季節だからこそ聴きたい、イントロのドラムスからストリングスで哀愁を誘うaikoの「秋 そばにいるよ」の一曲。イントロが終わってからはaikoの歌声と音数の少なめなバンドサウンドで構成するスローペースな楽曲です。
ベースラインとドラムスがはっきりとした楽曲なのもありますが、その厚みを生かしたまま再生できるのがFIIO FW3の特徴。サビに向かって段々と音数と音量が上がっていくさまを楽曲の雰囲気を崩さずに表現できています。aikoのボーカルの伸びは、もちろんインストにかき消されないはっきりとした再生をするのもFIIOらしい音作りかと。
Get Lucky – Daft Punk(88.2Khz/24bit)
言わずとしれた名曲中の名曲。アルバムRANDOM ACCESS MEMORIES自体もクオリティの高い楽曲が多く、スピーカーでもイヤホンでも楽しめる楽曲が多いもの。そんな本楽曲ですが、楽曲全体を通じて左右に広く、かつリバーブの使い分けもあり奥行きもあるという音場表現の難しい楽曲。FIIO FW3では、高い解像感を活かして余韻を余すことなく表現し、クラップの反響まで鳴らすことで音場感の良い音を楽しめます。
また、リズム感のあるドラムスも小刻みに叩くバスドラムとハイハットを漏らさずに再生。ボーカル、コーラスが入ってもぼやかさずに再生できていました。アルバム内のMotherboardもベースラインの厚い楽曲ですが、きちんと細かなベースの弦の感触まで表現できるのは大型ドライバーを採用しているからこそ、と思う音でした。
Baby Don’t Cry – 安室奈美恵
Nao’ymtが作詞作曲編曲を手掛けたR&Bな楽曲。基本的に打ち込みベースのサウンドで、これまで取り上げた楽曲とはかなり毛色が異なります。音は左右に振り切って、打ち込みサウンドが随所に散りばめられつつ、ボーカルはコーラスをはさみながら進んでいく楽曲です。
サビではボーカルに被せるような形でコーラスが入ってきつつ、左右橋では打ち込みがなり続けるという感じですが、分離感の高さもあって崩さずに表現できている印象。もちろん、普段利用しているヘッドホンやスピーカーに比べれば分離感は少ないですが、それでもイヤホンで楽しむレベルとしては十分。ソリッドなベースラインも隠れず、ただ出しゃばらないことで原曲の意図を汲み取れる印象でした。
色々な場所でFIIO FW3を使っていて気になったのが、接続の安定性の低さ。今回LDACで試聴した結果を記載しましたが、実際にLDACで安定して音楽を再生できるのはJR線の普通列車グリーン車といった周辺の人が限られ、また、強いWi-Fiなどの電波の影響を受けにくい場所くらい。通勤電車はもちろん、街なか、住宅地であっても音が途切れがちになってしまい、実用性は正直微妙でした。
色々なコーデックでの再生を試してみましたが、最新のファームウェアであるFW 1.1ではAACで再生するのが高音質と安定性を確保できる印象。apt-X Adaptiveも基本は高音質ですが、人が多い場所などでは露骨にビットレートが下がってしまう印象。この接続性能についてはもう少し頑張ってほしかったというところ。
また、遮音性に関してはコンプライ利用時でも普通という感じ。アクティブノイズキャンセリングを搭載していないため、純粋な遮音性のみで周囲の騒音を防ぎますが、電車のアナウンスや近くで喋る女性の声は入ってくる感じ。ここは高音質さを追求した結果と割り切る必要がありました。
ワイヤレスイヤホンでもこだわりの音質を求めたい方に。有線クオリティを実現できる製品
今回レビューしたFIIO FW3は、LDACなどの高音質コーデックに対応し、またBluetoothチップとは別に専用のDAC部を採用、さらに10mmのダイナミックドライバーによってワイヤレスイヤホンでありながらこだわりを持った有線イヤホン並の音質を実現した製品。実際に利用してみても、その表現力の高さはワイヤレスイヤホンの延長線というよりは、有線イヤホンをワイヤレスにした、という方がしっくりとくる印象でした。
レビュー終盤で触れたように、接続時の安定性などについてはまだ荒削りな部分はあるものの、AACなどであれば安定して接続できるため日常利用では困らない印象でした。FW 0.5のときに比べるとLDACでの接続性もFW1.1では向上していることもあり、今後使い込んでいくうちにより使いやすくなってくれるかなとも期待できるかと。
昨今は、様々なメーカーからアクティブノイズキャンセリング機能付きの高音質ワイヤレスイヤホンが登場中。そんな中、あえてノイズキャンセリングなしで純粋に高音質を志向したFIIO FW3、個人的には結構良い買い物だったかなと。ワイヤレスイヤホンでも音質を妥協できない、他のワイヤレスイヤホンで物足りなさを覚える方はぜひ購入してみては。