ガジェット

2025年のベストエンタメ:宝塚雪組『オーヴァチュア!』――朝美絢×夢白あや新トップコンビお披露目公演が最高だった

2025年はこれまでご紹介したように家を買ったりデジタル・デトックスをしに群馬県は嬬恋村に行ったり毎年恒例のデスクツアーをしたりと盛りだくさんでした。ただガジェットと触れ合っていたわけではなく、もう一つ楽しんでいたのが観劇です。今年は特に宝塚歌劇団にお熱な1年でした。今回ご紹介したいのは宝塚歌劇雪組の『ROBIN THE HERO』『オーヴァチュア!』です。これは朝美絢・夢白あや新トップコンビの大劇場お披露目公演。5月に東京宝塚劇場で3回観劇しました。

本記事は黒井 心さんが主催する「ここ一年で心に残ったベストエンタメコンテンツを全力でオススメする Advent Calendar 2025」の22日目の記事です。20日目はいなりの てんさんの【ベストエンタメアドカレ2025】香港ディズニーランド「ミスティック・ポイント」の洗練された世界観づくりと二重の異国情緒【20日目】でした。でした。明日はゆこなるさんです。

雪組観劇歴――『蒼穹のスバル』から『オーヴァチュア!』まで

愛の不時着

私が雪組を観始めたのは、2022年の『蒼穹のスバル』から。彩風咲奈トップ時代の雪組を追いかけ、『BONNIE & CLYDE』(2023年)、『ライラックの夢路』(2023年)、『双曲線上のカルテ』(2023年)、『Boiled Doyle on the Toil Trail』(2023年)、そして『ベルサイユのばら』(2024年)と観劇を重ねてきました。(『ボー・ブランメル〜美しすぎた男〜/Prayer〜祈り〜』ももちろん大活躍でも東宝でも観に行きます)

特に印象的だったのが、朝美絢・夢白あや新トップコンビのお披露目となった『愛の不時着』(2024年)。東京建物Brillia HALLでSS席、そして大阪梅田芸術劇場の千秋楽も観劇しました。夢白あやの美貌と力強い声、そして揺るぎない存在感。前トップスター彩風咲奈と添い遂げることなく雪組に残るという異例の決断をしたトップ娘役の覚悟を、あの舞台で目撃したわけです。

そして2025年、朝美絢・夢白あや新トップコンビの大劇場お披露目公演『ROBIN THE HERO』『オーヴァチュア!』。この公演を東京宝塚劇場で3回観劇したのが、今回紹介するエンタメコンテンツというわけです。

東京宝塚劇場で3回観劇――それぞれの席から見えた景色

2025年5月、東京宝塚劇場で『ROBIN THE HERO』『オーヴァチュア!』を3回観劇しました。5月10日のS席2階、5月17日の同じくS席2階、そして5月25日はB席最後列という、いわゆる宝塚ファンが言うところの「通い」というやつです。友人を誘って――1人は宝塚初心者だったはず――女子会のような形で劇場へ足を運びました。

この公演は朝美絢と夢白あやの新トップコンビ大劇場お披露目公演という記念すべきものであり、同時に歌唱力抜群だった久城あすの退団公演でもありました。さらに瀬央ゆりあが2番手として大きな羽根を背負う姿も見どころの一つ。雪組の新たな時代の幕開けを告げる公演だったわけです。

「Overture」という題名の頭の悪さと、中身の濃密さ

S1「Overture」

『オーヴァチュア!』というタイトル。英語で”Overture”は序曲を意味するわけですが、それをカタカナ表記にして感嘆符をつけるという、一見するとシンプルすぎる――いや、むしろ頭が悪いくらいストレートな題名です。しかし蓋を開けてみれば内容は盛りだくさん。全19シーンで構成されたこのショーは、ダンス、歌、ジャズ、エキゾチック、そしてクラシックと、多彩なジャンルを網羅しているわけです。

そして冒頭、S1「Overture」で流れる「俺達のOverture」という歌が、一度聴いたら耳から離れない中毒性を持っています。シンプルなメロディーながら、新生雪組のスタートを告げる力強さがあり、劇場を後にしても脳内でリピート再生されてしまうという。これが宝塚ショーの力なのかと、改めて実感させられました。

作・演出は三木章雄。ベテラン演出家による、新生雪組の魅力を存分に詰め込んだショーは、まさにトップスターとして新たなスタートを切る朝美絢を中心に構成されています。S1からS3にかけて、朝美絢と夢白あやの「美の暴力」とも言える圧倒的なビジュアルを見せつけられるわけですが、特にS2からS3にかけてのマントチェンジでの朝美絢の格好良さは、もう言葉にならないレベルでした。

S4「Warmin’ UP」からS5「Passion」へ――若手の輝きと一体感の爆発

今回の公演で私が最も心を動かされたシーンが、S4「Warmin’ UP」からS5「Passion」にかけての一連の流れでした。このシーンは、ショー全体の中でも特別な輝きを放っていました。NYのダンススタジオという設定。若い振付家が恋人のプリマダンサーとともに自らの夢を歌い踊るところから始まります。この振付家役を演じるのが縣千。舞台映えする容姿と巧みなダンスで早くから注目されてきた逸材です。そして恋人のプリマダンサー役が、107期生という若手ながら大抜擢された瑞季せれな。この配役を見たとき、「誰?」と私も思ってしまいましたが実際の舞台を見れば納得のダンススキルでした。

舞台はダンススタジオへ。ダンサーたちが退屈そうにウォーミングアップをしている中、不満げな様子に痺れを切らした振付家・縣千は、プリマの瑞季せれなとともに先頭になって踊り始めます。そこに挑発的に絡んでくるのが、生意気なダンサー役の諏訪さき。99期生の彼女もまた、切れ味鋭いダンスで観客を魅了します。

縣千のスタイリッシュで洗練された雰囲気のダンス、諏訪さきの挑戦的なステップ。二つのグループに分かれてのダンスバトルが始まると、舞台上のエネルギーが一気に高まっていきます。最初は対立していた彼らが、やがてダンスという共通言語を通じて理解し合い、一つになって踊る喜びを爆発させていく――この盛り上がりが本当に素晴らしかったのです。

「バラバラだったものが一つになる」という王道の展開。しかしそれが、これほどまでに胸を打つとは思いませんでした。若手たちのフレッシュなエネルギーが舞台全体を包み込み、その熱気が2階席まで伝わってくるようでした。ダンサーたちが一斉に踊り出し、全員が一つのビジョンに向かって進んでいく姿に、思わず涙が出そうになったほどです。

このシーンだけでも、何度でも劇場に足を運ぶ価値があるというわけです。実際、3回の観劇すべてでこのシーンが一番の見どころだと感じました。私はこのシーンだけをBlu-rayで何度も見てしまいます。

フィナーレの革新――デュエットダンスなしという大胆な選択

宝塚といえばこのデュエットダンス

通常の宝塚ショーでは、フィナーレでトップスターとトップ娘役がデュエットダンスを踊るのが定番中の定番です。大階段を背景に、二人が寄り添って踊る姿は、宝塚ファンなら誰もが心待ちにする瞬間。しかし今回の『オーヴァチュア!』は、この定石を覆す構成を取っていました。

フィナーレで大階段の中央に板付き(幕が開いた時点で舞台上にいること)でスポットライトを浴びるのは、夢白あやではなく音彩唯。次期トップ娘役とも言われる彼女が、娘役2番手という立場でありながら、大階段のドセンター(ど真ん中)で幕を待つという異例の配置。しかも歌い出しまで担当するという、これまでの宝塚の常識では考えられない鬼ツヨ配置だったわけです。そして瀬央ゆりあを中心としたダンスシーン。2番手としてしっかりとその存在感を示します。

続いて夢白あやが登場。ここの登場もとっても格好良いのがポイント。BONNIE&CLYDEで夢白あやに堕ちた身としては、この夢白あやを見たかったんです。今度は縣千と組んで群舞を率いる。トップ娘役が2番手男役と組んで踊るという、これまたイレギュラーな展開。でも、この男たちを引き連れて舞う姿が非常に良い。

二人はそのままセリ下がり、大階段の上から朝美絢が降りてくる。最後は朝美絢が一人で立ち、歌って終わる――デュエットダンスは一切なし、という構成でした。

これは演出家・三木章雄が、朝美絢と夢白あやという二人の実力とキャラクターを深く信頼しているからこそできる形だと思います。夢白あやの「力強さ」。トップ娘役でありながら、従来の可憐で守られるべき存在という娘役像とは一線を画す彼女のスタイル。男役たちと対等に渡り合い、時にはリードすることもできる存在感。たまらないですね。

注目のキャストたち――久城あす、瀬央ゆりあ、華純沙那の活躍

今回の公演は、雪組で長年歌唱力に定評のあった久城あすの退団公演でもありました。メインの活躍は『ROBIN THE HERO』の方、タック修道僧役での演技と歌でしたが、『オーヴァチュア!』でもS8「Dancing Hero」で瀬央ゆりあとともに「スターダスト」を歌い、その透き通るような歌声を披露してくれたのは嬉しいところ。これも、BONNIE&CLYDEでの歌上手牧師を彷彿とさせてくれました。

瀬央ゆりあは本当にどのシーンでも安定していて、その存在感は圧倒的でした。2番手として大きな羽根を背負い、しっかりとその役割を果たしていたわけです。星組に長くいて、2番目の位置まで上がっていたものの、なかなか2番手羽根を背負えず、専科へ異動。そして雪組で、ようやく大きな2番手羽根を背負うことができました。

瀬央ゆりあが咲く場所は雪組だったのだと、今回の活躍を観てしみじみ思いました。なぜか悪役が似合うんですよね、彼女は。『ROBIN THE HERO』でのガイ・ギズボーン役も、『愛の不時着』でのク・スンジュンも、その鋭く光る美しい表情が印象的でした。芝居も歌もダンスも、すべてにおいて安定感があり、トップスターをしっかりと支える存在。これこそが2番手の理想形だと感じさせてくれました。

そして華純沙那。2023年の「双曲線上のカルテ」で大抜擢され、2024年の「愛の不時着」ではソ・ダン役のような、すんスンとしたクールなスタイルが印象的でしたが、今回の「Dancing Hero」でのノリノリのダンシングパートナー役も素敵でした。どちらかといえば、クールビューティーな役柄が似合うと思っていたのですが、明るく弾けるような役もこなせる。その芸域の広さに驚かされました。(双曲線上のカルテは、明るい役だったんですけど)

小劇場デビューという新たな沼――演劇の世界が広がっていく

宝塚にハマった私は、最近小劇場にもデビューしました。宝塚の大劇場で感じた感動をきっかけに、もっと舞台芸術を知りたいという気持ちが芽生えたわけです。そこで観劇したのが、gravity EXPO’2025『更年期SHOW(症)ガール 〜The Musical〜』と、CoRich舞台芸術!プロデュース『あたらしいエクスプロージョン』の2本。

どちらも最高でした。本当に。宝塚から始まった観劇趣味が、小劇場という新たなジャンルにも広がっていく――これはもう完全に沼です。でもこの沼は、人生を豊かにしてくれる素晴らしい沼なのです。本アドベントカレンダーのルール違反になるので細かくは語りませんが、大劇場も小劇場も皆さん行くべき。

すべての方におすすめしたい『オーヴァチュア!』――2025年のベストエンタメ

『オーヴァチュア!』は、宝塚初心者にも、ベテランファンにも自信を持っておすすめできる作品です。朝美絢と夢白あやという新トップコンビのお披露目公演として、二人の魅力を存分に詰め込んだショーであり、若手の成長も感じられる構成。久城あすの退団という節目も含め、まさに雪組の「今」を凝縮した作品でした。

すべての方にオススメです。本当に。私はBlu-rayも購入しました。あなたもどうぞ。何度でも観返したくなる作品です。劇場で、あるいは映像で、この美の暴力を体験してください。2025年、様々なエンタメコンテンツに触れましたが、この『オーヴァチュア!』が最も心に残った作品です。気になったあなた、さぁ宝塚線に乗って大劇場へ。

本記事は黒井 心さんが主催する「ここ一年で心に残ったベストエンタメコンテンツを全力でオススメする Advent Calendar 2025」の22日目の記事です。20日目はいなりの てんさんの【ベストエンタメアドカレ2025】香港ディズニーランド「ミスティック・ポイント」の洗練された世界観づくりと二重の異国情緒【20日目】でした。でした。明日はゆこなるさんです。

公演情報 雪組公演『ROBIN THE HERO』『オーヴァチュア!』

小劇場情報

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

銀行をやめて人材系のHRテックらしいメガベンチャーにいたかと思えば、今はSIerで企画とかしています