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【ガジェ獣2020】オーディオメーカーでも増加するM&A。モガミ電線の例から学ぶ中小企業の事業承継。間違った判断をしないために

いつも当ブログをお読みになってくださっている皆様、こんにちは。また、初めてご覧になるという方は初めまして。中国メーカーのガジェットにやたら詳しいブログ、ChinaRのあーると申します。さて、本日この記事を書いているのは12月8日(火)、しかしこの記事は12月7日分のガジェ獣2020アドベントカレンダー。そう、遅刻です。申し訳ありません。
本記事はすべてを理解した星影さんが主催するガジェ獣2020アドベントカレンダー7日目の記事。昨日12月6日は尊いブログの「今年買って良かったもの」、明日9日はぽてこさんの「今年よく聴いた音楽2020」でした。19日の分は万座温泉スキー場からちゃんと期日通りに投稿します。ごめんなさい。
本記事ではガジェットメーカーでも、オーディオメーカーでも時々見かける親会社が変わったり、ブランドが身売りになったりする現象について解説していきたいと思います。その会社が作る製品に対しての知識があっても、経営者が変わったことについて「倒産した」とか「潰れた」なんて間違ったことをネットに書いたら恥ずかしいですしね。
今回は2015年に沖電気(6703)の子会社である沖電線に買収され、沖電線の完全子会社として営業している電線メーカー、モガミ電線の例を挙げて身近なメーカーにも起こり得る企業買収について解説いたします。本記事ではインターネット上から取得できる情報を素に分かる範囲で推測を交えながら解説いたしますが、買収された時期が古い(2015年)であることもあり内容に限界があります。ちなみに、あーるの担当先も先日買収されることになりました。さよなら、取引先…

そもそも企業の買収って何をするのか。

そもそも、時々ニュースにもなったりする企業の買収事案って何のことを指しているのか、正確に理解できているのでしょうか。上場企業でも株式公開買付(TOB)が行われたりしてますが、上場企業に限らず私が日々接している中小企業でもM&Aは盛んに行われているのが現実です。
会社には「経営」と「所有」の2つの分離という原則があり、会社の株式を保有する「株主=所有者」が指名した経営者が企業を経営しています。上場企業では株主総会で社長の選任をしているのは見かけると思いますが、中小企業でも同じようにオーナー1人が100%株主でも株主総会を行って社長を指名することには代わりありません。
そんな会社を買収する一番手っ取り早いのが、その会社の株式をすべて買い取ってしまうこと。上場企業でのTOBなども同じことをしており、基本的にその会社の議決権の半分以上にあたる株式を得れば、経営陣の選任などが単独で行使できるため実質的にその会社を支配することになります。(犯収法での実質的支配者の考え方も同様)半沢直樹の2期でやっていたのもこれ。
もう一つの方法が、対象となる会社の事業について事業譲渡を受けること。企業再生のGOOD-BAD方式(第2会社方式)でも用いられる手法ですが、事業の一部または全部について債権、債務、販売先、従業員、生産設備、固定資産、在庫など諸々を譲渡を受け、残った会社は精算するという方法です。この場合、場合によっては商標も譲渡を受けることもあり、対外的にはそのブランドのオーナーが変わったような形になるわけです。
その他にも合併させたりしちゃうことも手としてはありますが、一般的に「企業の買収」と呼ばれる案件は上の2パターンが普通と思っていただければと思います。

モガミ電線に一体何が起きたのか。なぜ「潰れた」と誤解されるのか

企業の買収がどんなことをするのかはお分かりいただけたかと思いますが、見てみると意外と単純。オーナー社長が持ってたモガミ電線の株式を全部沖電線が買った、以上。理由はWEBサイトにもあるように後継者難。工場を大幅に増設みたいな大規模な投資を繰り返していた、というわけでもなさそうですし、ケーブル一筋でこつこつ経営していたならば利益は積み上がってて、純資産でもそれなりの価格になったのかもしれません。
モガミ電線の決算資料は帝国の資料を見ても大して情報がなく、わかるのは官報に掲載されていた貸借対照表の情報のみ。年商5億程度の会社でありながら、4,000万円程度の純利益を毎期計上し、利益余剰金は800M超。自己資本比率は92%。ただ、上場企業の完全子会社になった際は通常単体の借り入れは全額繰り上げ返済することが多いため、平林
浩一氏がオーナーだった際にはどれくらいの借入金があったかは不明です。
さて、そんな超優良会社のモガミ電線ですが、ただ買収されただけのはずなのに話をこじらせるのがモガミ電線の国内・国外への販売代理店業務を行っていたエムアイティー株式会社が2020年6月30日に解散したこと。しかも、この会社のWEBサイトのアドレスが
“mogami.com”だったこと。モガミ電線のサイトに行こうとmogami.comを開いたら、事務所閉鎖とか出てきたら、そりゃびっくりするわな、ということですね。

モガミ電線=MITだったはずなのに、どうして?に対しての推測

中小企業でもあるあるなのが、堅実経営をしているとどんどん純利益額が積み上がってしまって、相続税評価時の株価がどんどん上がってしまうこと。今日本の中小企業で問題となる後継者問題では、純粋に跡継ぎがいないという話以外にも、あまりにも高くなりすぎた株価がネックになっている場合も。
そんなことを考えていたのか、その他の理由だったのかは不明ですがモガミ電線とエムアイティー株式会社についていえば、おそらくモガミ電線の株式の100%をエムアイティーが保有し、エムアイティーの株式をオーナーである平林氏一族で保有していたのではないかと思われます。
ただ、エムアイティー株式会社が純粋にモガミ電線の株式の保有だけをして、事業活動をしていないとなった場合は、法的には純粋持株会社になり税務上不利になる場面もあったりするのも事実。そのため、あえてエムアイティー側でモガミ電線の代理店業務を行うことで事業持株会社とすることができるわけ。
こんな事情からモガミ電線=エムアイティー株式会社=平林氏一族の会社という構図が出来上がっていったのではないかと推測します。そして、沖電線がM&Aでモガミ電線を買収する場合、別にエムアイティー株式会社を買取る必要はなく(エムアイティー株式会社の株式が平林氏一族の中で分散している可能性もありますし)、エムアイティーから直接買い取ってしまえばよいわけ。

これまで説明した流れを簡単に図にするとこんな感じ。モガミ電線は沖電線の完全子会社になり、エムアイティー株式会社が残される形に。あとは、エムアイティー株式会社の代理店業務をモガミ電線に移して、エムアイティーについては精算すれば平林氏一族にはエムアイティーの純資産が分配される方で決着がつくという感じ。
こうしてモガミ電線については経営陣が沖電線側からの派遣なのか、モガミ電線の生え抜きなのかは別として事業承継に関しては完了。モガミ電線=エムアイティーの関係も終わり、平林社長はモガミ電線の経営にはタッチしない形に。なぜ、わざわざ退任の挨拶で「沖電線(株)に追い出された」と書いているのかは理解不能ですが、よくある中小企業の事業承継をしただけでした。

中小企業のM&Aは今後増加。同様の例も増えていくかも

今回事例として取り上げたモガミ電線の事業承継。あくまでもよくある中小企業の事業承継の一つでしたが、株式の持株会社を挟んでいることで、あたかもモガミ電線ごと潰れてしまったかのような誤解を生んでいる例でした。オーディオメーカーも世界に名だたるメーカーであっても意外と中小企業が多いのも事実。モガミ電線のように、大手一部上場企業に買収されるという例は珍しくても、M&A自体は増えていくと思われます。
今回取り上げたような、事業持株会社から事業会社の株式を買い取るという例は多くないにせよ、様々な形で行われるM&Aについて知っておいて、間違った理解をしないようにするのもメーカーを応援していく上では重要。ぜひ、これからはそのメーカーの製品を愛するだけでなく、経営についてもちょっと関心を持ってもらえればと思います。

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銀行をやめて人材系のHRテックらしいメガベンチャーにいたかと思えば、今はSIerで企画とかしています