2020年9月30日。東京・新橋の第一ホテル東京すぐ裏にあった第三春美鮨が47年の歴史に幕を閉じ閉店。大将の長山一夫氏は昭和40年に早稲田大学商学部を卒業後、家業であった春味鮨本店に入店後、昭和48年に第三春美鮨をこの地にオープン。寿司屋家業としては55年という超ベテランでした。
第三春美鮨に通う客を虜にしたのは、長山氏自身が日本全国を周り各地のネタについて知り尽くし、季節に応じて最も美味しいネタの寿司だけでなく、大将の寿司に関する絶大な知識を知ることができること。一部では「寿司アカデミー」とまで言われるほどでした。
そんな第三春美鮨ですが、新型コロナウイルスの感染拡大により4月から6月まで臨時休業を実施。「こんなに長い間休んだのは初めて」と長山氏が話す休みを経て、寿司以外のことにもチャレンジしていきたいという思いから9月30日をもって閉店をすることに。長山氏の握る寿司に魅了されていたうちの一人である私とあんそく氏(@android_sokuho)は、今回、幸運なことに最終営業日である9月30日に訪問し、第三春美鮨、そして長山氏の寿司屋稼業最後の寿司を堪能。その様子をレポートいたします。
鮨バイリンガル版 [ 長山一夫 ]
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味に解説は不要。最終日もぶれないこだわりを味わう
第三春美鮨の夜の部はおすすめコースのみ。その日の仕入の状況に合わせて、大将が最も美味しいネタを厳選し出してくれます。このため、毎月通っていけば出てくるネタも変わっていき、1年を通じて季節を感じながら楽しんでいけるのがミソ。
また、最初から握りに入るのではなくスタートはお通し、そして刺し身、穴子と続いたあとに握りに入っていく様子は、寿司を楽しみ味わうための準備をどんどん進めていくようなもの。
刺し身や穴子を一通り食べ終わると握りに。第三春美鮨の握りは基本的にハイペース。大将がさっと皿に追いたら、ふわふわのシャリが崩れる前にすぐに食べないとせっかくの寿司台無しになってしまう。以前は撮影する暇なんかないぞ!と大将に怒られるという噂もあったものの、全力で写真を撮る我々の影響もあってか(?)最近は写真撮影に寛容になっていました。
写真からも分かるように江戸前鮨は醤油を塗った状態で出してくるのが基本。また、そのまま手で口に入れて一口で食べきるのがベター。なので、握りが始まったら我々食べる側も真剣勝負となっていくのも面白いもの。感動は食べてからでも十分ですしね。
握りが始まったところで、私達の1杯目のビールが空いて日本酒に移行。ビールは木村硝子店のタンブラーで味わっていましたが、大将自身の作品であるお猪口で呑む日本酒もまた最高。第三春美鮨で出る日本酒はたったひとつ、かつぬる燗のみ。大将が昭和52年に出会ってから自身も惚れ込んで飲み続けている梅錦山川酒造の吟醸本醸造酒「つうの酒」、それも樽酒のみという拘りっぷり。詳しくは長山氏の著書である仕入れ覚書を御覧いただきたい。
木村硝子店 コンパクト 12ozタンブラー
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あとはもう一々記事中で説明しても仕方ないもの。全てが完成されて口に放り込むだけで絶品と言うだけでは言い表せない寿司が続くのみ。流石に最終日となると、9月中旬に訪問したときよりもさらに気合が入り、食べている側も急速に満たされていくのを感じてしまいます。
第三春美鮨の締めは巻物。巻物では当然シャリとネタも主人公ですが、第三春美鮨は海苔にも拘っており大将自身が失われた浅草海苔を求めて選んだ海苔を仕入れて利用。私の記憶が正しければ、現在は島内啓次氏のアサクサノリを使っているはず。
巻物を食べ終えた頃に、先程握りでも出てきていた海老の鬼殻焼きが登場。熱々の鬼殻焼きにレモンを絞ってかけたところをがぶりといくのが至高。ごくたまに鬼殻焼きだけ出すをの忘れられることがありますが、今回は最後の鬼殻焼きを堪能。これも、他のお店ではなかなか出会えないのです。
最終日らしくこのあとに江戸前寿司といえばの定番である穴子も登場。実のところを言うと、穴子だけは最後まで新橋鶴八の方が好きだったのですが、第三春美鮨のちょっと控えめな穴子も絶品なのです。
笑顔の二番さん、間宮氏が持ってきたのはちょうど出来上がったばかりの熱々の玉子。第三春美鮨の玉子はこれもまた絶品で、熱々のこれを少しずつ箸で崩しながら食べていくと日本酒が止まらないわけ。
最後だし、ということで他のお客も思い思いに追加の注文を。私達も最後に食べるなら、ということで巻物と握りを追加でいただきフィニッシュ。入店からここまで約1時間半、人によってこの時間を長いと見るか短いと見るかは別れますが、あっという間の寿司の時間でした。
全員で乾杯、そして最後の記念撮影と思い思いの時間へ
2階の席の客も含めて一通り出し終わったところで、最後ということもあり乾杯へ。よく写真を見ていただけると大将、あっという間にグラスビールを空けてました。この日は当然満員でしたが、隣の方はこの第三春美鮨に通い続けて38年とか。10年以上通い続けているという方がゴロゴロいらっしゃるわけ。そりゃ、最後は思い出話に花が咲きます。
ここでは挙げれないものの、お店の外に場所を移動し当日の来店者と大将、間宮さんを含め全員で記念撮影。花は持ってきませんでしたが、三脚とフラッシュを持ってきたのが役に立ちました。あとは、それぞれ思い思いに写真を撮ったり、大将や間宮さんと話をして帰路についていきました。
その後は大将も着替えてすっかりリラックスモードに。何故かマセラティのGranTurismoの迎えが来て大将も帰路につきました。というか、大将の帰宅後も店に最後まで残った我々は何をしていたんだか…こうして、寿司界のレジェンドとも呼ばれた第三春美鮨の大将、長山一夫氏の55年の寿司屋稼業は幕を閉じたのでした。
長山一夫氏の次回作にご期待ください。
今回レポートした第三春美鮨の最終営業。私とあんそく氏(@android_sokuho)は5年ほどしか通っていませんでしたが、それでも同じお店に当初は毎月、今でも2,3ヶ月に1回は通い続けていたというのは初めて。大将の人柄、寿司の知識、そして第三春美鮨の味に惹かれ続けていたわけです。
そんな大将の長山氏は実は陶芸歴も長くもう35年は続けているとか。お店で使っていた徳利も、皿も全部大将自身の作品で、今回私もお皿にお猪口にと貰ってきてしまいました。他にも小唄に三味線にと多趣味なのも長山氏のスゴイところ。寿司屋は辞めても、きっと長山氏は他のジャンルでも活躍され続けることでしょう。
あとは、5年以上にわたり第三春美鮨しか行っていない私とあんそく氏の次の寿司屋を見つけることができればですが、それはまた難しそう。とりあえず、寿司会の原点である新橋鶴八に戻って、その後は、どうしましょうか。
鮨バイリンガル版 [ 長山一夫 ]
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(愛媛)梅錦 つうの酒 吟醸 720ml
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